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2024/01/01 09:00
東南アジアの赤道直下に位置する世界で3番目に大きな島、ボルネオ島。この島の最北、マレーシア領サバ州のクダット地域にはルングス(Rungus)と呼ばれる先住民が多く暮らしています。
そのルングス人が、先祖代々受け継がれてきた伝統技術を用いて制作している手工芸品の一つに、「リナゴ(rinago)」と呼ばれる編みかごがあります。
(リナゴは、「rinagu」と表記されることもありますが、当店では職人さんの使用する表記方法に従い「rinago」を使用しています。)

(写真:リナゴの伝統的な形「トゥバウ」)
リナゴ(rinago)という言葉には、ルングス語で「作る」や「作り出す」、「創造する」という意味があるそうです。
ルングス人が今日まで大切に守り続けてきたリナゴの伝統技術ですが、その商いの歴史は、1958年に初めて地元のマーケットで行われた物々交換から始まりました。

(写真:リナゴを編むルングス人職人)
1960年代には、干ばつによる影響で米の不作が2年間続き、宣教師の提案で手工芸品として広く売られるようになりました。そして1970年代半ばに、サバ州政府がリナゴに関心を持ち、観光客へのお土産品として推奨されるようになりました。現在では、州都コタキナバルのお土産店でも目にすることができます。
就労機会の少ない農村地に暮らすルングスの人々にとって、リナゴは家計におけるセーフティーネットの一部となっています。

(リナゴ職人さん提供の写真:リアスと昔のリナゴ)
リナゴは元々、クダットのジャングルに自生するリアス(lias)とリンコン(lingkong)と呼ばれる植物の二つを用いて編まれていました。

(写真:リンコンの葉)
リンコンは、マレー語では「ribu-ribu」と呼ばれていますが、学名についての明確な情報は職人さん方からは得られませんでした。
文献を参考に調べてみたところ、フサシダ科の「lygodium circinnatum」であると表記されていましたが(Ahmad&Holdsworth 1995)、Rahayu et. al.(2020)によると、その植物はフサシダ科に属していたが、最近の研究ではカニクサ科に属しているそうです。
Praptosuwiryo(2003)の文献に、「circinnatum」について記されていました。この植物は、スリランカとインド北東部から中国南部、東南アジア全体からバヌアツとソロモン諸島で発見されたようです。抗菌特性についても調査されてきたようで、マレーシアでは出産の薬にも使われていたと書かれていました。マレー語では、「ribu-ribu dudok」「ribu-ribu bukit」「paku jari merah」という別名もあるようです。
リナゴ職人さんによると、リンコンの若葉は食用になり、根は薬にもなるそうです。
リンコンは藪や幼齢林、ココナッツ農園やゴム農園などで、はうように生息しています。
職人さん曰く、栽培は可能ですが、小さく枝分かれが多いため、現状では、自生する天然のリンコンを使用したリナゴのみを販売しています。
そのため職人さんは、土地の一部には手を付けず、リンコンの生育地を守っています。

(写真:リンコンの蔓を採取)
ラヤンラヤンのリナゴを制作している職人さん方は、リンコンの選定と採取、加工を全て自分たち自身で行っています。
リンコンの蔓は、若すぎず古すぎないものを、そしてしっかりしたものを選びます。
採取する際は、シダの上部の葉のついている細い蔓はカットし、根元部分を引っこ抜きます。引っこ抜かずに途中でカットしてしまうと、蔓がすぐに乾燥して加工しにくくなります。
ちなみに、雨の日に採取したリンコンは色むらがひどく、出来栄えが悪くなるそうです。

(写真:採取した蔓を剥皮)
リンコンは、採取したらすぐに剥皮します。
まず先端に切り込みを入れ、芯を残して四等分に割きます。四等分にされた蔓の表皮のみがリナゴを編むのに使用されます。
リンコンの蔓は、乾燥してしまうと割きづらくなるそうです。もし乾いてしまったら、水につけてまたすぐに剥皮します。
ただし、一度割いてしまったら、水に浸けるのは禁物。黄色くなったり、黒くなったりして、リナゴの色味が悪くなるそうです。

(写真:加工の様子)
割いたリンコンは、これから編むリナゴの大きさに合わせて幅を揃えます。
職人さん方は、缶の容器や缶の蓋などに様々な大きさの穴を開け、そこに通してサイズを均一に整えています。

(写真:編みの様子)
現在、リナゴ編みの原材料には、リンコンと、リアスに代わりラタンが使用されています。
編み方は、ラタンをヨコ軸にリンコンをタテに巻きつけるように編んでいきます。
一本一本をきつくキュッと巻きつけているため、硬く丈夫なかごが出来上がります。

(写真:銅器)
リナゴのデザインの中には、いくつか伝統の形があります。
それらは、昔々にルングス人が使っていた銅製の容器に由来しています。
ルングス人コミュニティでは結婚のおくりものとして、また、装飾品や噛みたばこ、ビーズや縫物の手芸用品の入れ物として使用されていました。

(写真:伝統の形)
リナゴにもその伝統の形は受け継がれています。そして、それぞれにルングス語の名前があります。
写真左上から、
トゥバウ(tubau):つぼ型・蓋付き・つまみ付き
サラパ(salapa):楕円形・蓋付き
ティノンポック(tinompok):円型・蓋付き
ロングヴァイ(longguvai):つぼ型・蓋付き・台座付き
ガドゥル(gadul):つぼ型・蓋付き・つまみ付き・台座付き

(写真:様々なデザインのリナゴ)
当店のリナゴは、幼少期から祖父母・親世代からその伝統技術を伝授され、何年もリナゴを編み続けている熟練の職人によって制作されています。
日本へ届けるにあたり、現地の職人さん方と連携し、デザインやサイズを一から話し合い制作しています。また、リナゴの品質向上のため、一つ一つ丁寧に編むことを心掛け、既存デザインの改良にも取り組んでいます。
伝統のデザインに加え、マレーシアでは出会えないオリジナルの作品も取り扱っております。
※こちらの記事は、マレーシア・ボルネオ島サバ州に暮らす先住民ルングス人の方々やルングス人のリナゴ職人さん方のインタビューに基づいて記されたものです。
※随時、加筆&修正しています。
マレーシア・ボルネオ島の手工芸&クラフト作品専門店「ラヤンラヤン」